2026年(令和8年)10月27日
茨城大学理学部附属宇宙科学教育研究センター
太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星は、周囲の環境に大きな影響を与えるため、銀河の進化を理解する上で非常に重要な天体です。一方、大質量星の形成領域は観測が難しく、その形成過程には未解明の部分が多く残されています。
茨城大学では、大質量星の形成領域にある原始星(成長途中の星)の近傍から放射されると考えられている、 6.7 GHz class II メタノールメーザーを2013年から毎日観測しています。このうち、2017年から2022年にかけては、右円偏光と左円偏光という2つの偏光モードを同時に観測していました。
磁場が存在すると、ゼーマン効果と呼ばれる現象によって、右円偏光と左円偏光のスペクトルに周波数のずれが生じます。このずれは、磁場の視線方向の成分の強さに比例します。しかし、メタノールの磁場への応答が微弱であることに起因し6.7 GHzメタノールメーザーでは、この周波数のずれが非常に小さく、検出することは容易ではありません。そこで本研究では、2017 年から 2022 年の 5 年間に渡り取得された2つの偏光モードのスペクトルをそれぞれ平均し非常にノイズの小さいスペクトルを取得し、両方の平均スペクトルの類似性を表す「相関関数」を計算する手法を用いて、ゼーマン分裂の検出を行いました。
その結果、メタノールメーザーを十分な明るさで検出できた103天体のうち、62天体でゼーマン分裂の検出に成功しました。このうち38天体は、本研究にて新検出となった天体です。また、一部の天体では、異なる放射領域の間でゼーマン分裂の大きさが顕著に異なることが明らかになりました。
図左は、G06.795−0.257という天体の解析結果です。この天体では、2016年に当時茨城大学の研究員であった杉山孝一郎氏らの研究によって、メタノールメーザーが大質量原始星の周囲を回転する円盤上から発する円盤風から放射されていることが明らかになっています(図右)。
図左上は、検出されたゼーマン分裂の大きさと、実験室分光(Takagi et al. 2022)で得られたゼーマン分裂係数を用いて換算した磁場の強さを示しています。図左下は、5年間の観測データを平均して得られたスペクトルです。また、図左の赤枠と青枠は、それぞれ図右の赤矢印と青矢印が指す領域に対応しています。
図からわかるように、異なる位置にあり、異なる方向に運動する領域の間で、ゼーマン分裂の符号が異なっています。Takagi et al. (2022) にて得られたゼーマン分裂係数を用いて磁場に換算すると、磁場の視線方向成分の符号も異なることになります。この結果は、大質量原始星の周囲を回転する円盤の影響で磁場がねじられ、複雑な磁場構造が形成されている可能性を示しています。
一方、Lankhaar et al. (2018) は、理論化学的な手法を用いてメタノールのゼーマン分裂係数を導出し、メタノールの超微細構造を考慮すると、放射領域ごとに異なるゼーマン分裂係数持ちうると主張しています。このため、磁場の強さや向きが同じであっても、領域によってゼーマン分裂の大きさや符号が異なる可能性があります。したがって、本研究で検出されたゼーマン分裂から磁場の強さや構造を推定する際には、ゼーマン分裂係数に由来する不確定性を考慮する必要があります。
今後は、日立32-m電波望遠鏡を用いて、6.7 GHzだけでなく、12.2 GHzなど他の遷移のメタノールメーザーについてもゼーマン分裂を同時検出し、複数の遷移の観測結果を比較することで実験的に求められたゼーマン分裂係数と理論的に求められたゼーマン分裂係数のどちらが観測結果をよりよく説明できるかを調べ、この不確定性の解消を目指します。これにより、大質量原始星の周囲における磁場構造のさらなる解明を目指します。
本研究成果は『日本天文学会欧文研究報告(PASJ: Publications of the Astronomical Society of Japan)』に掲載されました。
