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近傍銀河NGC 3079中心に存在する高温分子ガスを発見

2015年3月1日

宇宙科学教育研究センター

活動的銀河中心核(AGN)注1や爆発的星形成(スターバースト)注2などの銀河中心領域の活動現象はその周りの高密度星間ガスに大きな影響を及ぼします。よって、これら高密度ガスの物理状態を調べることはそのエネルギー源を探るための強力な手段になります。

近傍銀河NGC 3079は私達から19.7 Mpc注3の距離にあり、その中心に太陽質量の数百万倍の超巨大ブラックホールをもつと考えられています。また、NGC 3079の銀河中心から円盤に対して垂直に数kpcに渡って吹き上がるスーパーバブルが見つかっています (図a、b)。しかしながら、その主たるエネルギー源(AGN、スターバースト、あるいはその両方)に関してはまだよく分かっていません。

茨城大学宇宙科学教育研究センター博士研究員の宮本らはNGC 3079 中心領域のエネルギー源を探るために、The Karl G. Jansky Very Large Array(JVLA)注4を用いたアンモニア分子観測を行いました。アンモニア分子は高密度ガスを調べるのに適しており、また、その幾何学的な構造から約2GHzの周波数帯域内に6 本の反転遷移 ((J,K)=(1,1)−(6,6))を持ちます。同時に6つの遷移を観測することで正確な強度比を求めることができ、それらから分子ガスの物理状態を導出することが可能です。

観測の結果、NGC 3079中心においてアンモニア分子吸収線が検出されました(図c)。これは中心領域に多量の高密度分子ガスが存在すること、またその背景に強い電波源があることを示しています。アンモニア分子吸収線の強度比から温度を導出すると、これまで報告されている他の近傍銀河の値に比べて非常に高いことが分かりました。また、アンモニア吸収線のピーク位置の分布を調べた結果、アンモニア分子がNGC3079中心核から出ているジェットに沿っていることが明らかになりました。これらは中心核からのジェットが中心領域ガスの加熱に大きく寄与していることを示唆しています。

今後、国立天文台が所有し茨城大学宇宙科学教育研究センターが運用する日立32メートル電波望遠鏡や、国立天文台VERA 20 メートル電波望遠鏡 (4台)等を用いた大学 VLBI 連携観測(JVN) による追観測によって、アンモニア分子の分布や物理状態をさらに詳しく調べて行く予定です。

(図a、b) 近傍銀河NGC3079の光学画像(提供:ハッブル宇宙望遠鏡)  (図c)アンモニア分子の分布、色が暗くなるにつれて分子ガスの量が多いことを示している。(提供:アメリカ国立電波天文台)

 

(注1)   活動的銀河中心核(AGN):銀河の中心で激しい活動をおこしている天体。銀河中心の太陽系程度の領域から太陽が放出するエネルギーの百億倍から百兆倍ものエネルギーを放出します。これは物質が中心の超巨大ブラックホール(太陽質量の百万倍から数億倍)に落ち込む際に解放される重力エネルギーを放射エネルギーに変換して輝いていると考えられています。

(注2)   爆発的星形成(スターバースト):太陽質量の10倍以上の質量をもつ大質量星が1000万年程度の期間に数万〜数億個爆発的に生成される現象。

(注3) pc(パーセク):1 pc 〜 3.26光年 〜3.09×1016 m

(注4) The Karl G. Jansky Very Large Array(JVLA):アメリカ国立電波天文台が所有する電波望遠鏡干渉計の一つ。 

【参考資料】Miyamoto, Y., Nakai, N., Seta, M.,Salak, D.,Hagiwara, K.,Nagai, M.,Ishii, S.,Yamauchi, A.,

『Hot ammonia in the center of the Seyfert 2 galaxy NGC 3079』,

日本天文学会欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan),

第67巻1号(2015年2月),論文番号5

http://pasj.oxfordjournals.org/content/67/1/5

【報告者】宮本 祐介(茨城大学宇宙科学教育研究センター産学官連携研究員 [博士研究員])