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ヨーロッパの電波望遠鏡との VLBI 観測に成功!

2014年4月10日

宇宙科学教育研究センター

茨城大学宇宙科学教育研究センターが運用し、国立天文台が所有する日立32メートル電波望遠鏡が、2013年12月18日に 8 GHz 帯の電波を用いて、ヨーロッパ、ロシア、中国との同時観測を行い、天体からの電波を捉える事に成功しました。この観測によって、約百万分の1度(視力に換算すると約2万!)という非常に高い解像度、かつ、非常に高いダイナミックレンジ(信号雑音比)で、天体の画像を描く事に成功しました。この観測の成功を受けて、火星探査機マーズ・エクスプレスが火星の衛星フォボスの非常に近くを通過する際の軌道決定を行うための観測を2013年12月28日に行いました。現在解析中ですが、フォボスの重力場を明らかにできると期待しています。

(参考資料)

ASTRON JIVE 今日の画像(2014年3月28日)「新しい EVN (ヨーロッパ VLBI 観測網) の電波望遠鏡」

報告者:セルゲイ・ポグレベンコ (Sergei Pogrebenko)

 

内容:

2013年の年末に EVN の電波望遠鏡は、地球上の電波望遠鏡とともに(合計37台!)、ESA(欧州宇宙機関)の火星探査機「マーズ・エクスプレス」が火星の衛星であるフォボス (Phobos) を使ったフライバイ(近接低空飛行)を行うという非常に稀な機会を捉えて、探査機が出す微弱な信号の観測を行いました(注1)。このフライバイの観測結果については、後日このページ(今日の画像)にて報告されるでしょう。

JIVE (欧州VLBI連携機関) は、フライバイという非常に難しい観測を実施する前に、フライバイ観測の潜在的な共同研究者との位置づけで、新しい電波望遠鏡を加えて、試験的な観測を行いました。新しい電波望遠鏡とは、中国・上海天文台が所有する最近完成したティアンマ65メートル電波望遠鏡(図上段左側)と、国立天文台が所有し茨城大学が運用する日立32メートル電波望遠鏡(茨城県日立市、図上段右側)です。試験観測は、2013年12月18日に、クエーサー J1232-0224 (注2)からの 8.4 GHz 帯の電波を受信することによって行われました。ティアンマ65メートル電波望遠鏡、日立32メートル電波望遠鏡とともに、ロシアの KVAZAR 観測網に所属するゼレンチュクスカヤ32メートル電波望遠鏡とバダリー32メートル電波望遠鏡、国立天文台が所有し山口大学が運用する山口32メートル電波望遠鏡、中国のウルムチ25メートル電波望遠鏡が参加しました。

典型的な干渉縞が全ての電波望遠鏡間で観測されました(図下段左側)。今回の試験観測では、きれいな UV カバレッジ(図下段中央、注3)が得られたため、1時間以下の観測で、ダイナミックレンジ(信号雑音比、注4)1000という非常に良い品質で電波源の分布図を得る事ができました(図下段右側)。

この試験観測は、ヨーロッパVLBI観測網にとって、東側(アジア側)へ、電波望遠鏡の表面積の合計約5000平方メートルの潜在的な拡張可能性について示すもので、非常に喜ばしいものです。また、今回の試験観測によって、フライバイ観測の成功への道が開かれました。続報にご期待ください!

 

著作権:JIVE SpaSIA グループ、V. Tudose (宇宙科学機関、ルーマニア)、W. Wang (上海天文台、中国)、Y. Yonekura (茨城大学/国立天文台)、K. Fujisawa (山口大学/国立天文台)、M. Kharinov (KVAZAR、ロシア)

 

原文(英文)へのリンク(表示に時間がかかる場合がありますが、そのままお待ち下さい)

http://www.astron.nl/dailyimage/index.html?main.php?date=20140328


(注釈)

VLBI(超長基線干渉計):遠く離れた複数の電波望遠鏡が、同じ信号(天体起源、人工電波源起源など)を、同時刻に観測する事により、単一の電波望遠鏡などでは実現不可能な非常に高い解像度を得る手法。

ASTRON:オランダ電波天文学研究機構

JIVE:欧州VLBI連携機関

 

注1:探査機が出す微弱な信号の観測を行い、探査機の軌道を正確に決定する事によって、火星の衛星「フォボス」の重力場を明らかにする事が、研究の目的です。

注2:クエーサーとは、非常に遠方に存在するにも関わらず、光や電波などで非常に明るく輝いている天体です。非常に遠方に存在するため、非常に高い解像度が得られる観測によってのみ、内部構造を見る事ができます。

注3:UV カバレッジとは、観測条件の指標の1つで、VLBI などの干渉計観測に特有な指標です。図において、観測点が隙間無く完全に埋め尽くされているのが最も良い状態ですが、そのような状態は電波望遠鏡で地上を埋め尽くさなければ実現できません。実際の観測では、地球上に電波望遠鏡が点在するため、観測点はとびとびの点になります。観測点が比較的均一に分布している状態を、UVカバレッジが良いと表現します。UV カバレッジが良いと、真の天体の内部構造に近い画像を得る事ができます。

注4:ダイナミックレンジ(信号雑音比)とは、観測条件の指標の1つで、どれだけ強い信号から弱い信号までを、忠実に再現できているかを表すものです。ダイナミックレンジの数値が大きいほど、暗い内部構造まで捉えることができます。